大腸ポリープとは
大腸内視鏡検査では一番内側にある粘膜を観察しています。大腸は、内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜という5層構造になっていますが、ポリープは粘膜にできます。
大腸ポリープは腫瘍性と非腫瘍性に大きく分けられます。腫瘍性ポリープは悪性腫瘍(がん)と良性腫瘍に分けられ、非腫瘍性ポリープは炎症性をはじめさまざまな種類があります。大腸ポリープのうち、大腸がんになる可能性が高いのは腫瘍性ポリープです。
腫瘍性ポリープは、最初からがんとして発生するものと、良性腫瘍の腺腫が悪性化してがんになるものがあります。多くの大腸がんがポリープから発生しているため、ポリープの段階で切除所してしまうことで将来の大腸がん予防になります。
症状がほとんどないため検査が重要です
大腸ポリープは自覚症状がない場合が圧倒的に多いのですが、できた場所や大きさなどによっては症状を起こすことがあります。症状が現れるのは出口である肛門に近い場所にできた場合や、大きなポリープの場合です。こうしたポリープでは、血便や粘液の付着した便、便潜血反応の陽性、狭窄や腸閉塞、肛門からポリープが出てくるなどの症状が現れることがあります。ただし、こうした症状が現れることなく時間が経過して大腸がんになってしまうケースが多いため、リスクが上昇しはじめる40歳を超えたら定期的な検査が重要になります。
大腸がんリスク
一般的に大腸がんは40歳を超えるとリスクが上昇しはじめますが、遺伝的にリスクが高いケースも存在します。そのため、当院ではご家族に大腸がんや大腸ポリープになった方がいる場合は、40歳前に検査を検討するようおすすめしています。なお、こうした遺伝性大腸がんには、多数のポリープが発生する家族性大腸腺腫症、大腸がんを発生させやすいリンチ症候群があります。
大腸内視鏡はポリープの発見・診断・切除まで可能な唯一の検査
大腸ポリープを発見するための検査には、便潜血検査、注腸X線検査、そして大腸内視鏡検査があります。
便潜血検査
便潜血検査は便を採取して血液が混じっていないかを調べる検査で、目に見えないほど微量の血液でも検出できます。ただし、痔や炎症性の大腸疾患など便潜血検査で陽性が出る疾患が数多いため、陽性になった場合には精密検査として大腸内視鏡検査を受けることではじめて確定診断となります。また、ポリープや進行したがんがあっても陰性になってしまうことも多く、発見できるのは進行がんの90%以上、早期がんの約50%、腺腫などのポリープでは約30%しか見つけることができないとされています。便潜血検査により大腸がんの死亡率を約60%、大腸がんになるリスクを46~80%下げると報告されているように社会全体で考えた場合には有効ですが、便潜血検査の陰性は大腸がんや大腸ポリープがないということではないため注意が必要です。
注腸X線検査
肛門から挿入したチューブから造影剤を大腸内に注入するという事前の処置を行ってからX線撮影をする検査です。腸管の重なりや事前処置などによって見逃しが起こることがあり、組織採取もできないため確定診断には内視鏡検査が必要になります。またX線撮影しますので、被曝量はわずかあります。
大腸内視鏡検査
先端に小さなカメラが付いた細いスコープを肛門から挿入して、大腸全域の粘膜をすみずみまで直接、確認できる検査です。発見した病変の組織を検査中に採取して確定診断ができますし、検査中にポリープ切除の日帰り手術を行うことで、大腸がんの予防的な治療まで可能です。
内視鏡検査による大腸ポリープの診断
病変が発見された場合、周辺の血管などの状態をわかりやすく表示できる特殊な光に切り替えて観察し、治療が必要なものかどうかを判断します。以前は色素を撒くことで起こる変化を確認していましたが、当院では余計な負担をかけずに一瞬の切り替えで構造を確認できる特殊光も使用しています。これにより検査時間も短縮できています。
内視鏡による観察で病変の形や大きさがわかりますし、深さや進行度などもある程度鑑別が可能です。ただし、病変を切除して病理組織検査を行うことで確定診断となります。
検査中に見つかった大腸ポリープや早期大腸がんの場合は、その場で内視鏡による切除を行います。まれですが進行がんが疑われるなどにより外科手術が必要になるケースもあります。
内視鏡検査中に行う大腸ポリープ切除の日帰り手術
検査中に発見した腫瘍性ポリープは、良性の大腸腺腫と悪性の大腸癌に分かれますが、大腸腺腫を放置し大きくなると癌化すると言われています。大腸腺腫の大きさと癌化率に相関関係があり、大きければ大きいほど癌化率が高いです。また大きければ大きほど、切除が難しくなるため、10mmくらいまでの小さいうちに切除した方がよい。10mmまでなら、通電せずに日帰りポリープ切除が可能であり、術後出血などの合併症が少ないです。10-20mmまでなら、通電して日帰りポリープ切除が可能ですが、術後出血により注意が必要です。20mmを超える場合は、ポリープの形により、入院した上でポリープ切除を行う必要があります。
このように、発見したポリープの大きさや形状に合わせて手法を使い分け、安全な切除を行います。
ポリペクトミー
ポリープと腸粘膜の間に茎があるケースに用いられます。内視鏡の先から輪状のワイヤーであるスネアを出して茎を締め付け、10mmまでなら通電せずに日帰りポリープ切除が可能であり、術後出血などの合併症が少ないです。10-20mmまでなら、通電して日帰りポリープ切除が可能ですが、術後出血により注意が必要です。
EMR
大きな病変やEMRでは持ち上がらないケースで使われます。粘膜の下に液体を注入した後、電気メスで周囲を切開し、粘膜下層を剥離しながら病変を切除していきます。
ESD
そのままではスネアをかけて治療できない平坦なポリープや早期大腸がんに適した手法です。病変に生理食塩水を注入してからスネアをかけます。その後、スネアによるしめつけや切除を行い、回収した組織は生検を行います。 早期のポリープや大腸がんは平坦なケースがよくありますが、これはポリープや大腸がんが腸の一番内腔を覆っている層である粘膜層から発生して成長するために起こります。 内視鏡的粘膜切除術は、粘膜層のすぐ下にある粘膜下層に専用の液体を注入します
内視鏡で切除可能な大腸ポリープ
内視鏡検査中に切除が適応になるのは、主に直径6mm以上の大腸ポリープです。それ以下のサイズでもがんが疑われるもの、平坦なもの、へこんだ形のものの場合は切除して確定診断を行う必要があります。また、内視鏡で完全に取り切ることができる早期大腸がんも切除対象になります。なお、直腸やS状結腸に多発発生しやすい傾向がある過形成性ポリープの場合には、切除をせずに定期的な内視鏡検査による経過観察となります。
切除した病変は顕微鏡による病理検査を行い、がんが大腸のどの層まで進んでいるのかを確認します。大腸は一番内側の粘膜、その下の粘膜下層、筋膜、漿膜という構成になっていますが、粘膜下層までがんが進行している場合にはリンパ節への転移が約10%に生じるとされています。こうした場合にはリンパ節を除去する手術が必要かどうかを慎重に見極めます。また、粘膜下層より下にがんが進んでいる場合は進行がんとなり、内視鏡による切除ではがんを取り切ることができないため外科手術が必要になります。
ポリープ切除後について
切除した約2週間後には、ご来院いただいて全身状態を確認し、切除した病変の顕微鏡による病理検査の結果、ポリープの数や大きさなどを慎重に考慮して、次回の検査時期を決定します。
小さいポリープ切除は内視鏡検査時に可能ですが、手術ですからリスクを伴います。まれにしか起こりませんが、出血や穿孔などが起こる可能性があるため、ご帰宅後は安静に過ごし、数日から1週間は食事内容や生活にある程度の制限があります。穿孔の頻度は約0.2%、出血の頻度は約0.4%とされており、数日後に出血が起こる場合もあります。なお、出血や穿孔は内視鏡を使った止血鉗子やクリップなどの処置でほとんどの場合、対応が可能です。ただし、外科手術が必要になるケースもゼロではありません。
大腸がんリスクについて
大腸がんは前がん病変である大腸ポリープの切除による予防が可能です。他にも大腸ポリープや大腸がんができやすい体質や年齢、生活習慣などを知り、リスクが高い場合には症状がなくても定期的な内視鏡検査を受けることで予防につなげることが可能です。
一般的に大腸がんは40歳を超えた頃からリスクが上昇しはじめるため、はじめての大腸癌検診は40歳になったら検討することをおすすめしています。ただし、ご家族に大腸がんや大腸ポリープを発症した方がいる場合には、それよりも早いタイミングでの検査を検討してください。
食習慣や生活習慣でも、赤身肉・高
カロリー・過度のアルコール摂取、肥満、喫煙などは大腸がんリスクがあることがわかっています。また、加工肉のリスクも指摘されています。食物繊維が豊富な食事習慣がある場合リスクが低いとされています。 他にもアスピリンやステロイド性抗炎症薬による効果も報告されていますが胃腸障害などのリスクがありますので、本邦では予防として服用するのは一般的ではありません。